2025年6月19日(日本時間20日)に行われたMLB・ドジャース対パドレス戦で、大谷翔平選手が報復死球を受けるという出来事がありました。
背景にあるのは、メジャーリーグ独特の“報復文化”と、それをめぐる暗黙のルール。日本の野球ではあまり見られないこの慣習は、どのような意図で行われ、どんな意味を持つのでしょうか。
この記事では、今回の試合の流れを追いながら、MLBと日本プロ野球の文化的な違いや、大谷選手の振る舞いが注目された理由を整理していきます。
報復死球とは?意図と背景をやさしく整理
「報復死球」とは、味方の選手が相手から危険な死球(デッドボール)を受けた際、その仕返しとして相手打者に死球を与える行為を指します。単なる偶然ではなく、「あえて当てる」という意図が含まれているのが特徴です。
メジャーリーグ(MLB)では、こうした報復目的の投球が実際に起こるケースがあり、公式サイトの「HBP(Hit-by-pitch)」の解説でも次のように触れられています。
“However, a pitcher may sometimes throw at a hitter intentionally as a form of retaliation. If the home-plate umpire suspects this is the case, he has the right to eject the pitcher (and the manager of the pitching team) from the game.”
引用元:MLB公式サイト
この英文は、日本語にすると以下のような意味になります。
投手が報復の目的で打者に故意にボールをぶつけることがある。主審がそれを意図的と判断した場合、投手(および監督)を退場させる権利がある。
つまり、MLBでは報復目的の死球そのものを明確に禁止しているわけではありません。
ただし、審判が「故意」と判断した場合には、即座に退場処分とすることがルールとして認められているため、実質的には強く抑制されています。
このように、報復死球はルール上グレーゾーンに位置する行為であり、選手や監督の判断、そして審判の裁量が大きく関わるという背景があります。
なぜMLBでは報復が起こる?文化と暗黙のルール
MLBでは、味方選手が危険な死球を受けた際、相手チームの主力打者などに対して「報復死球」を与える文化が根強く残っています。
これは単なる感情的な仕返しではなく、チームの士気を保ち、「うちの選手を傷つければ、こちらも黙っていない」という意思表示とされる場合があります。
ただし、やりすぎれば退場処分や出場停止のリスクも。審判団やリーグからの警告試合指定などによって厳しく対応されることもあり、あくまで“ギリギリの駆け引き”というのが現実です。
では、実際にどのような流れで今回の報復死球が起きたのか、当日の試合展開を簡単に振り返ってみましょう。
- 9回表パドレスのフェルナンド・タティスJr.に死球
ドジャースのルーキー投手ジャック・リトルが、タティスJr.の手首に死球を当て、両ベンチ総出の緊迫した状況に。両監督が退場処分となり、試合は「警告試合」に指定されました。
- 9回裏ドジャースの大谷翔平に報復死球
パドレスのロベルト・スアレスが、大谷翔平の背中(右肩付近)に160kmの速球を当て、再び乱闘の危機に。大谷選手がベンチの選手たちを制止するなど冷静に対応し、場を沈静化させました。スアレスは即座に退場処分に。
MLBでは報復死球が一種の“文化”として根づいているからこそ、大谷選手の冷静で紳士的な振る舞いが「スポーツマンシップの象徴」として、現地メディアやファンから高く評価されたのです。
日本プロ野球との違いは?なぜここまで差があるのか
MLBと日本プロ野球(NPB)では、「報復死球」に対する考え方やその受け止め方に大きな違いがあります。
その背景には、両国の文化やスポーツ観の違いが色濃く影響しています。
以下に、アメリカ(MLB)と日本(NPB)それぞれの文化的背景を比較しながら、なぜこのような違いが生まれるのかを整理してみましょう。
- 個人主張を重んじる文化
「やられたらやり返す」という行動が、自分やチームを守る“正義”として受け入れられる場面がある。 - フィジカルな競技性の許容
フットボールやアイスホッケーなどと同様、「強くあれ」という精神がスポーツ全体に根づいている。 - 暗黙のルールを“戦略の一部”とする空気
不文律も、駆け引きや心理戦の一環として捉える文化がある。
- 協調性や礼儀を重んじる文化
感情的な報復行為は「美しくない」とされ、非難の対象になりやすい。 - チーム内の規律や上下関係が強い
監督や首脳陣の意向に背くことは許されず、自主的な報復行為は敬遠されがち。 - ファンやメディアの視線が厳しい
選手の行動はすぐに「人格」と結びつけられ、紳士的な態度が評価される傾向がある。
このように、「報復死球」という一つの行為をめぐる評価や意味合いは、それぞれの国が大切にしている価値観を反映しています。
文化の違いを知ることで、プレーの裏にある意図や判断をより深く理解できるようになるでしょう。
まとめ
MLBでは、「チームを守る」「気持ちを伝える」ためのひとつの表現として、報復死球がいまも文化として根づいています。
そんな中で、大谷翔平選手が見せた冷静な対応と、チームを思う振る舞いは、単なるプレーを超えた強いメッセージとして私たちに届きました。
野球というスポーツを通じて、国や文化の違いを知るきっかけをくれる――そんな場面だったのかもしれませんね。